田尻祐一郎著「江戸の思想史」(中公新書)を読んで驚きました。
水戸藩の尊皇攘夷論者である會澤正志斎が、その主著「新論」で、著者の氏名を逆立ちさせているのです。
表紙には、右から縦書きで、下記のように書かれています。
正志 會澤 先生著
新論 全二冊
江戸書林 玉山堂蔵梓
會澤が「新論」を執筆したのは1825年ですが、正式の刊行は1857年とあり、氏名が倒置された表紙は、1857年に刊行された本(内閣文庫蔵)でしょうか。
「江戸の思想史」のなかで、會澤正志斎は、水戸藩きっての理論家と、きわめて高く評価されています。
そんな尊皇攘夷論者が、あえて氏名の倒置を許したのは何故か。
「江戸の思想史」には何の説明もありませんが、ことによると、氏名倒置は、日本または中国に古来からある伝統的な衒(てら)い、あるいは「格好づけ」なのかも知れません。
もしもそのような伝統があれば、幕末以降、今に至るまで、外国人に自己紹介するとき、氏名を逆立ちさせても、たいして気にならなかった訳です。