石狩のワシ派、タカ派

札幌と石狩川流域の猛禽類の狩りと子育てを動画で記録します。

田山花袋の「蒲団」を聴く

田山花袋の「蒲団」は、私が若いころには、読む可能性の全くない作品でした。

なぜなら、私が読んでいた作家や批評家にとって、田山花袋や「蒲団」は唾棄すべき存在だったからです。

自然主義文学やプロレタリア文学は、こころざしの低い「あるじ持ちの文学」であり、かかわりをもってはいけない分野と考えていたからです。

今回「蒲団」を聴き、私は「田舎教師」など、田山花袋の他の作品も聴いてみたいと思いました。

それは、以前、島崎藤村の「千曲川のスケッチ」を聴き、「破戒」や「夜明け前」など、藤村の作品をもっと聴いてみたいと思ったのと同じ感覚です。

「蒲団」の赤裸々で身勝手な心理描写は、あの時代によく発表できたものだなぁ、とあきれるばかりです。

もとより谷崎潤一郎の方がもっとあからさまですが。

「蒲団」が、私小説のさきがけ、というのであれば、モデルもあるだろうと、Wikipediaで調べると、まさに「事実は小説よりも奇なり」でした。

モデルとなった女弟子は、のちに田山花袋の養女のかたちで作中のボーヨーとした恋人と結婚、その後めでたく女流作家としてデビューし、「蒲団」のかたきを討つ作品を発表しているというのですから驚きです。

「蒲団」は、小説と現実を二重写しにした映画が撮影できそうな、きわめて面白い素材です。

若いころ、私が読んでいた作家や批評家が、田山花袋や「蒲団」を批判したのは、どう評価してよいかわからない、その新しさに対する強いやっかみから出たものだろう、と判断した次第です。

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