石狩のワシ派、タカ派

札幌と石狩川流域の猛禽類の狩りと子育てを動画で記録します。

鴎外の「青年」と人形食い

渋江抽斎」もそうだったが、鴎外の作品では、主人公の男より脇役の女の方が何倍も生き生きと描写されていて、強く印象に残ります。聴いているのが男だから、という理由だけではないようです。

いつもクリーム色のリボンをつけて現れる美少女、妖艶な坂井未亡人はもちろんのこと、大胆な暴露的作風の歌を詠み、行動も奔放な若い女歌人(モデルは与謝野晶子か?)、忘年会で名刺を渡されるおちゃらという名の芸者、そして箱根の旅館の綺麗な女中。みなとても魅力的です。

50年以上振りの再会を果たし、聴き終わっても、あのとき主人公の青年と坂井未亡人の間に、生々しい何かがあったとは、高校時代に読んだときと同様、想像ができませんでした。

後半部は、ほとんど初対面の新鮮な印象でしたが、唯一、芸者のおちゃらと女形役者のゴシップが新聞に取り上げられ、「人形食い」と批難?されるところで、「人形食い」という奇異な言葉をこの小説で覚えたことを、懐かしく思い出しました。

昔の新聞は、文春砲どころではありません。プライバシーも何もあったものではありませんから、根掘り葉掘り面白おかしく扇情的に書き立てます。教育に熱心な真面目な家庭では、子供には成人するまで新聞を読ませなかったくらいです。

そういう新聞が、今のワイドショー以上に世論を煽り立て、為政者の理性的な判断を縛る「空気」を醸成したことは、疑問の余地がありません。