日本酒が、今味わっているような、スッキリした風味になったのは、ごく最近のことだろうと思います。
大昔の酒はどぶろくで、米の栄養とアルコールによる酔いを、少しの無駄もなく、すべて摂取していました。どぶろくの味わいは複雑濃厚ですが、すっきり感は望めません。
贅沢のできる支配階級向けに、どぶろくを濾したり、絞ったりして固形分を除くようになり、次第に清酒に近づいて行きます。総合栄養食品からアルコールドリンクへの進化です。だんだんと現在のスッキリした味わいに近づき、幕末には、ほとんど現在と同じ清酒になっていたと思われます。
しかし、その風味は全く別物だったと確信します。
その理由は、ごく最近まで、日本酒はすべて樽酒だったからです。
樽酒の風味は、日本酒の風味というより、樽の風味です。
ウイスキーの風味が、樽の風味であるのと同じ意味で、醸造と輸送、貯蔵に木の樽が使われていた間は、日本酒の風味は、大部分、樽の風味だったということです。